blogユーザーインタビュー: 株式会社 Mizkan Holdings
食酢を始めとする食品の製造販売に江戸時代から取り組む老舗企業ミツカングループ(以下、ミツカン)。世界中でその地域の食文化を尊重しながら、生活者に寄り添う製品の提供に挑戦し続けています。2019年には、人と社会と地球の健康に貢献するという新しいコンセプトのブランド「ZENB(ゼンブ)」をスタート。創業210余年の老舗が始動した、食の未来に向けた新プロジェクトに大きな注目が集まっています。
今回は、ZENBプロジェクトの研究開発を、Amplifiedを使った競合情報の活用で支援するパテントリエゾン、新規事業開発チームの小西 学氏にお話をお伺いしました。
── ミツカングループの事業と、新ブランド「ZENB」についてお聞かせください。ミツカンは1804年創業で、食酢をはじめとする調味料や納豆など食品の製造販売を行っています。また、積極的に海外展開も行っており、ミツカングループ全体の海外売上高比率は既に5割を超えています。国内の方にはあまり馴染みがないかもしれませんが、例えば、北米ではパスタソース「Bertolli」、英国ではスイートピクルスの「Branston」やモルトビネガーの「Sarson's」などを製造・販売しています。
そして、2019年の3月に始動したのが新ブランドの「ZENB」です。ZENBは、普段捨てている植物の皮や芯やサヤなどを捨てずに丸ごと使用することで環境負荷や食品ロスを減らし、動物性原料や添加物に頼らない味づくりを実現し、素材本来の美味しさや栄養素を引き出すことで、10年後の人と社会と地球の健康に貢献するという新しいコンセプトの食品ブランドです。
私は、R&D寄りの知財担当として、開発と知財との橋渡しを行う「パテントリエゾン」業務を行っています。 具体的には、大きく2つの役割があります。一つ目は、出願業務や権利関係の役割です。全研究員から3ヶ月ごとにヒアリングし、特許出願できそうな案件や特許の芽を見つけ、特許網の構築を行っています。二つ目は、開発者の発明創出と研究開発における課題解決を、競合の特許情報を活用して支援する活動です。 R&D寄りのリエゾンというポジションの強みは、研究開発の極めて初期段階、コンセプトが決まった位のタイミングから、開発者と話せる立場にあることです。フェーズが進んでから先行技術があったら目も当てられませんので、開発者の話を聞いて咀嚼して、それならこういう情報がありますよと、先に提供する事で彼らの支援ができます。特許の中に必ずしも「答え」があるわけではないですが、少なくとも先行技術情報を早期に取り入れることで、開発のスピードは確実に上がると思っています。また、開発者が1人で研究開発をしていると、行き詰まってしまう事があります。そんな時も第三者である私に相談し、課題を説明することで、自ら整理できる事も多いのではないかと考えています。私も面倒臭さや実現可能性を一旦無視し、問題解決だけにフォーカスした質問をするので、課題をよりクリアにできます。私には知財のバックグラウンドはありませんでしたが、過去12年間に研究開発や製品企画、マーケティングなど様々な部署で培ってきた情報収集のやり方、全社方針や社内状況の把握、各部署の理解が開発者とのブレストに役に立っており、過去の経験が知財業務での自分の強みになっていると思います。
── パテントリエゾン業務の主テーマに置かれている「競合の特許情報」を使った支援は、もともと決まっていた活動だったのでしょうか?いえ、実は私から提案したものなんです。きっかけは単純に「なぜ皆は先に”特許”を読まないのだろう」と疑問に感じたことでした。
私自身、特許情報を読むようになったのは本プロジェクトの担当になってからです。実際に特許を読んでみたら特許情報は「宝の山」だと思いました。そして、今自分たちの研究してることが、5年前、10年前の他社の特許に既に書いてある、そんな事が最初の3〜4ヶ月で数回あり、競合情報をもっと体系的に利用すべきだと、私の業務のテーマとしてもらいました。
特に新規事業には、競合の特許情報が有益だと感じています。今までミツカンが取り組むカテゴリというのは、ソースなど、ある程度経験のある製品カテゴリでしたので、他社の情報から何かを得るというよりは、むしろ潤沢な社内ノウハウをもっと活用しよう、という傾向が強かったと言えます。しかし、全く新しいカテゴリにどんどん出て行こうとする最近の動きの中では特に、競合情報の活用は必須です。例えば、初期段階であれば、何かのレシピや作り方などが役に立ちますし、コンセプトが新しくない場合にはすぐに分かります。中間段階では、生産上の不具合やお客様のご要望に応える製品の改良にも、競合情報は役に立つと思っています。例えば、もっと食感が良いものが欲しいというご要望があれば、似たような課題から引っ張って見つけた情報を活用することも出来ます。
一方で、味作りなどノウハウのある部分においては、弊社の開発力はやはり凄いなと思います。自社の開発者を褒めてしまいますが、例えばZENBヌードルのスープヌードル用調味料などの味作りには、鍋つゆなどを作っていた担当者がアサインされ、参加してくれたので、本当に美味しいですね。動物性原料を使っていないのに、こんな深みが出るんだと。コンセプトなどがフォーカスされがちですが、このような目立たないところにこそ、当社の強みが凝縮されているのだと感じています。
── AIツールを業務に導入された背景と、Amplified導入の決め手についてお聞かせいただけますか?2019年のプロジェクト参加直後に、AIを使った特許検索のツールがあることを知りました。 特許には研究開発に使えそうな情報が豊富にあるのに、私のように知財業務に携わって間もない人材には、情報をうまく引き出しきれない。それを非常にもどかしく感じていた時、検索式が不要で、簡単に検索できるAIツールの存在を知りました。数社のAIツールを調べてみた中で、私のニーズにマッチするのがAmplifiedでした。試しにやってみようと思える価格で、単月から始められる気軽さもあり、導入に大きな懸念はありませんでした。
Amplifiedに魅力を感じた理由は、大きく3つあります。 まず一番の理由は、UIの部分です。検索式不要で、感覚的に使える工夫がUIに取り入れられていること。検索結果を出す特許AIツールは他にもありますが、出た検索結果を実際に読んで、その結果を活かして更に再検索できる設計にも、他社ツールとの大きな違いを感じました。
2つ目は、検索精度の部分です。Amplifiedは母集団を限定しないですよね。検索が容易でも、精度が低かったら魅力が半減してしまうところですが、Amplifiedは母集団を限定しないにも関わらず検索精度がすごく高い事を、類似文献の検索から確かめることができました。
そして3つ目が、解析処理のスピードです。検索に使った文章やキーワードがあまり良くないことは結構あります。特にまだツールに慣れてない段階では、ツールの特徴が分かっていないので一度で良い結果を出すのは難しいと思います。他社のツールでは、検索結果が出るまで数十分〜数時間かかることが多かったのですが、Amplifiedだと検索結果がすぐ出るので、この検索方法はまずかったなとか、こういう情報は先行情報として出てないんだなと分かった時点で、別の書き方に直したり、すぐに修正して結果を確認できます。このスピードもAmplifiedを選んだ大きな理由でした。
Amplifiedを導入してみて、調査に対する心理的、作業的なハードルが下がったと感じます。例えば、会議で議論に上がった内容が自分の予備知識のない技術分野の話であれば、会議終了後の隙間時間で、調べたいことをGoogleで叩くかのように、Amplifiedを使ってすぐ調べられます。以前だったら30分〜1時間、まとまった時間を取って検索式を作ってから調査していたのが、今なら15分ぐらいあれば、Amplifiedで関連特許をさっと確認できます。
── 今の業務の中で、課題に感じておられることはありますか?今の課題は、自分以外にAmplifiedを使う人間を増やせていないことです。 現在は、開発者にヒアリングした内容を私が咀嚼して、私が役に立つであろう特許を検索するというフローですが、あるべき姿は「開発者が自分たちで検索できる」だと思っています。
そのためには、まず開発者に「特許情報は自分たちの研究開発に有益なんだ」と理解してもらい、特許情報を自分たちの課題解決に使いたい、自分でも調べたいというニーズを生み出すことが必要だと思っています。自分にメリットがなければ、わざわざ特許情報を読みませんし、わざわざ新しいツールを使ってもくれません。その取っ掛かりとして役立つと思っているのが、Amplifiedで最近出たビューアー機能(調査結果の閲覧権限をユーザーに与えられる)とアノテーション機能(特許の特定箇所にコメントを残せる)です。まずは「検索はこっちがするんで、見るだけでいいんでちょっと見てみてください」と、私が検索した結果を開発者にそのまま共有して、読んでもらうフローを試しています。
開発者の中で、特許情報が有益で、それを間接的にも活かせたという成功事例が積み重なって行けば、次は自分でも調べてみようという意識になるのかなと思いますし、彼らが気づいたことをコメントで色々と書き込んでくれれば、私も新たな視点に気づけます。
ただし、検索結果を単に渡すだけでは実際の課題解決には繋がりにくいので、私が今やっているのは、特許情報と課題解決を繋げる「接着剤」のような事です。検索結果を共有しながら、そのアイデアを使ってこういうことができませんか?と自身のアイデアを加えたり、Amplifiedの結果をいくつかピックアップして、それを元にブレストしたり。まずは、特許情報を自身の問題解決に使う意識を継続的に醸成しながら、成功事例を積み重ねていくことで、将来的のあるべき姿、開発者が自ら調べ、こういう情報があるならこういう風に使えるよね、と課題解決と特許情報を自ら繋げられる道筋を作っていくつもりです。
最終的には、皆でAmplifiedを活用することで、ミツカンだけのオリジナルな特許データベースを創れるのが面白いですよね。特許情報プラス、我々の会社のアイデアや視点も加えた特許情報データベースを形成できる。それには、どんなコメントを残すと将来的に役立つのかといったことも考えた上でのルール作り等は必要だと思いますが、コメントを残すだけでも、1年前に同じ特許を誰かが見て、ここが気になっていたといった情報を共有できるので、部署内のコミュニケーションを促すツールにもなるのではないかと思っています。
── 小西様が目指す未来を想像した時、今後Amplifiedにはどんな機能があると良いでしょうか?R&Dにおいて、特許情報の中に答えはないので、何か特許情報をきっかけ、ヒントにして、新しいアイデアや気づきが出てくるような仕掛けがある良いなと思います。例えば、検索した結果を読んでいて気になる文章やコメントがあった場合、そこを選択肢すれば選んだ箇所に近い特許がポンポンと出てくるとか。コメントも貯まっていくと思うので、コメント自体を検索できるような機能とかも有り難いですね。
特許を検索するツールは結構ありますが、検索結果をアイデアの発想に使うツールはあまりないので、結果を読むだけじゃなくて、読んだ後にそれをどう活用するかを含めて、Amplifiedに何か新しい機能が追加されると面白いと思っています。